Festival TJCC参加『LOVE』

Festival TJCC参加『LOVE』
2011年5月26日~27日 ジュヌヴィリエ国立演劇センター[フランス ジュヌヴィリエ]

「LOVE」は2007年に初演して以来、日本国内8カ所、韓国2カ所で上演され。2010年には日本人俳優と韓国人俳優による合作が日韓両国で上演されています。
これまでも各会場で演出を変更して上演しています。今回の公演も、客席を含めた劇場空間オリジナルの作品になるでしょう。私自身は演劇に於けるオリジナリティを、「時間」に見出しています。

作品は3つのパートに別れています。第一部は言語を使わない無言劇です。出演者はプロの俳優なので特別な技術を持っていますが、特別な身体言語を使わずに、我々が当たり前に持っている身体の表現能力を使ったコミュニケーションを積み重ねていきます。

第二部はダンスを中心にしたパートです。私は、音楽に合わせて身体を動かす事で多幸感を得られる事は、人類がもつ不思議な能力の一つだと考えています。単純に相手と同じ動きをする事も、一つの音楽と共に行う事で、更に強い一体感をもたらすでしょう。俳優はそれぞれオリジナルの身体を持ちながら、ダンスによって繋がりを持つ事ができるでしょう。私は特別な振り付けはしません、振り付けによる身体表現ではなく、別々の身体同士のその瞬間に生まれる繋がりを大切に考えています。

第三部は最も私たちの生きている世界に近いパートです。公演会場によって言葉を使う場合もありますし、使わない場合もあります。日本公演では声が枯れるまで客席に言葉を投げかけ続け、韓国人俳優との公演は最後まで言葉は使わずに上演しました。今回のジェヌビリ公演ではおそらく言葉を使います。しかし、フランス語字幕を映写する様な事はしないでしょう。私たちの言葉は日本語です。フランスの観客のほとんどは理解できないでしょう。しかし、私たちとフランスの観客の関係はそれが真実です。観客と言葉によるコミュニケーションが不可能であるということ、最後のパートはその事実をフォーカスし、個人同士の繋がりから、日本とフランス、そして世界と私たちの関係を描きます。

この3つのパートによって、コミュニケーションによるコミュニティの形成、そしてその崩壊、崩壊後の世界が描かれます。それは観客にある一つのメッセージを伝えるモノではないでしょう。時代や場所によって観客の想像する世界も変化します。もちろん私たち日本人にとって、そして恐らくフランス人にとっても3月11日に起きた東日本大震災、そしてそれによる原子力発電所の事故は歴史の分岐点になりました。地震以前に作られたこの作品も、現在は新しい存在意義を持ちます。「LOVE」という普遍的でもあり、懐疑的にも受け取れるタイトルが付けられたこの作品は、どの時代に於いても、それぞれの時代を映していくでしょう。

最後に「愛」について。愛とは、相手を自分と同じように感じる事、相手の幸せを自分の幸せだと感じる事だと考えています。しかしその到達は「不可能」だとも言えます。私たちは同じにはなれません。そして誰かを選べば、選ばれない人も存在します。「愛」を考える時は、光だけではなく闇も同時に見なくてはいけないと考えています。
2007年、私は日本の駅で、見ず知らずの女性から蹴らるというとても小さな体験からこの作品を作り始めました。しかし、私を蹴った女性も自分の恋人や家族のことは蹴らないでしょう。私の小さな体験が持つこの構造は、どこか現代の世界の構造と繋がっているのではないでしょうか。
(フェスティバルパンフレットより)


演出:多田淳之介
出演:夏目慎也 佐山和泉 佐藤誠 間野律子 石橋亜希子(青年団) 山本雅幸(青年団) 髙橋智子(青年団) 堀井秀子

照明:岩城保 演出助手:橋本清 通訳:横山優 制作:服部悦子








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